沙羅の花


祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらわす。
奢(おご)れる人も久しからず、ただ春の夜の夢の如し。
『平家物語』冒頭より

今から約2500年前、釈尊はインドのクシナガラの沙羅の林の中で入滅されました。
その時、枕辺の4本(双樹)の沙羅は時ならぬ花を咲かせ、足辺の4本(双樹)の沙羅は白変して枯れたといわれます。
よって沙羅は、釈尊の入滅を表し、諸行無常を説く仏の花として知られています。
また、釈尊の入滅を描く「涅槃図」の横臥する釈尊の背景にも描かれています。

應聖寺の沙羅の花

日本では夏椿(ナツツバキ)といいますが、その沙羅は、朝に咲き夕べには散る、たった一日だけの無常の花なのです。
『平家物語』の冒頭でうたわれたように、平安末期、我が世の天下の如く権勢を振るった平家ですらすぐに源氏に取って替わられた訳で、
どんな者にも必ず終焉の時がやって来ることを、釈尊入滅時にならって、時ならぬ花を咲かせ、または白変させて
「諸行無常」を示した沙羅を以て、この世の無常を説き示しています。
たった一日だけ咲く純白の花は、まさにこの世の無常をたとえる花といえましょう。

應聖寺には、樹齢300年を超す沙羅の大木がありましたが、まさに諸行無常の理の通り、平成8年、樹命を終えました。
現在では、その大木の子供、孫にあたる沙羅の木が、大小約200本、境内のあちらこちらに成育しています。